さくらの色は春の色、春の魔法にかけられて
近所の公園に1本の木があります。その木の高さはトイレの屋根くらいですから、あまり高いとは言えません。つまりはただの木なのです。
その木がある場所は、木よりも木の足もとの花の方に目がいきます。地域の人かボランティアか知りませんが、たまにその場所で土いじりをしている人を見かけます。その人たちのおかげでパンジーなどの花がかわいく咲いていて、通り過ぎる時は花を見てしまうのです。
日ごろは気にもしない公園入り口の木ですが、日当たりがいいのか花が咲くのが早いのです。2週間ほど前はつぼみがふくらんでいて、なんと1週間前には花が満開でした。
その木に咲いた薄いピンク色の花を見て初めて、初めてそれが桜の木だと気づきました。
知らないうちに静かに満開を迎えていた桜がご近所にあったなんて、ものすごい発見です。
薄いさくら色の花が満開になっている様子は、そこだけ一足早く春が訪れたようでした。まだ寒い風が吹いているというのに、もう桜が咲いているなんて自分の目が信じられませんでした。一体どのような魔法がその木に春を運んできたというのでしょうか。
自然とは不思議なものだとつくづく感じますが、理由はともあれ春を印象付ける美しい桜の花には思わず足を止めて見入ってしまいました。
それから数日後のことです。急ぐ用事もなかったので、私はふたたび満開の桜を見に行きました。名前の書かれた札が見えたので、何という種類の桜がこれほど早く花を咲かせているのか見てみようと思って近づいてみました。
薄いピンク色の花を咲かせた木の名前を見て愕然(がくぜん)としました。だって名札には大きな字で「梅」と書いてあったのですもの。
その木は梅だったのです。桜と同じ色をしていたので、すっかりだまされていました。でも冷静に見ると確かに桜とは幹の感じが違いましたし、花のつき方だって桜にしては変でした。
桜はまだかなあと気にしていましたので、桜と同じ色の花びらを見て私はその木が桜だと思い込んでしまったのです。あまりにもバカバカしい話ですね。
それにしても桜を待ち望む人間とはなんと愚かなものなのでしょうか。